デベロッパーの事業多角化①【第5稿】
こんにちは。
本日は元マンション専業デベロッパーの事業の多角化について書きたいと思います。
① 木造戸建て・宅地開発事業
宅地開発事業とは、広大な土地を区画割し、一区画ずつ販売していくという、不動産開発の基本的な事業モデルです。ユーモアのある女性社長がホテル展開するアパホテルも、創業時期は宅地開発を行うところから始めています。
土地だけを売ることを「土地売り」。
そこに建物を建てて売ることを「建売販売」。
土地を売ってから注文住宅を受注するのが「売建販売」と呼びます。
地場産業の中小企業でも数区画の土地売り事業はやっています。
例)500㎡の土地を5000万円で買って、1000万円で区画割して、1500万円/区画で売る。
⇒ 原価:5000+1000=6000万円
売上:1500*5=7500万円
利益:1500万円
ここから、営業費用、銀行への金利、司法書士、土地家屋調査士、売買の印紙代、仲介手数料…etcありますが、ケースによるのでここでは割愛します。
事業用地を担保に入れれば5000万円くらいは銀行から事業融資受けられますし、経験者であればこのくらいの事業規模のものは1人で管理できますので、不動産業者としては展開しやすいものだと思います。不動産開発で起業を目指す方は、まずここまで辿り着くのがステップになるのではないでしょうか。
一方、元マンションデベロッパーは10億円~100億円の事業融資を受けて事業をやってきている実績がありますので、事業規模が大きなものに注力しています。また、最近のデベロッパーは「建売販売」が主力です。
例)10,000㎡の土地を10億円で買って、道路工事と区画割工事をし、1500万円/戸で建物を建てる。マンション販売部隊の営業力を武器に販売していく。
⇒ 10,000㎡のうち、道路面積が2,000㎡だとした場合、100㎡*80区画となります。
原価:10億円(土地)+ 2億(造成)+ (1500万円*80戸)(建物)=24億円
売上:4,000万円(土地+建物)*80戸=32億円
利益:8億円
同様にここから、営業費(広告、人件費含む)など経費がかかります。
以上のように、デベロッパーの宅地分譲事業は、事業スケールが大きいことが特徴です。地元の中小企業ができないような大型開発ができることが、地域への貢献にもなり、働き手としても面白みがある事業です。
また、大規模事業となると「街並みの創出」ということが可能になりますので、それが「付加価値」となり、住宅相場の中でも高額で販売することができます。
特に、デベロッパー戸建ての草分け的存在の野村不動産「プラウドシリーズ」、三井不動産「ファインコートシリーズ」は高級建売戸建として、確固たるブランドを持っています。
次に、マンションデベロッパーが宅地開発事業を展開するメリットについてです。
結論から申し上げると、マンション事業と比較して資金回収が早い。ということが挙げられます。マンション事業は約3年続く工事が終わるまで資金回収はできません。
宅地開発事業は、建物を建てて売る計画を立てていても、資金回収が必要になったときは土地だけで販売すればいい。という舵切りが可能です。
こういった理由から、力(資金力、営業力、信用)を持った元マンションデベロッパーが宅地開発・木造戸建て事業展開に注力してきました。その中、従来の木造住宅メーカーの飯田産業ら6社が統合したことが大きな話題となりました。
今後のデベロッパーの戸建て事業マーケットの展望ですが、実は厳しくなってくると思っています。
理由は下記のとおりです。
⑴ 野村、三井不動産の戸建てのブランドが強すぎる。
⑵ 飯田産業グループの建売が安すぎる。
⑶ 木造建築も、建築費が少しずつ上昇して、販売価格が上がって売れなくなってきている。
⑷ 新規参入業者が多く、土地の買収競争が激しい。
一つずつ説明していきます。
⑴について
野村、三井不動産と、他新規参入デベロッパーも事業スキームは同じです。
なので、利益を削らない限り、理屈上同等価格になります。なのに、ブランド価値があるため野村、三井不動産の戸建てにお客さんを取られるという壁があります。特に、中央線沿線などの人気エリアはこの傾向が強いです。
⑵について
飯田産業は自社施工なので、建築費が安く抑えられます。
ただし、デベロッパーの戸建てに対しては廉価な建物であることは間違いないのですが、一般のサラリーマン家庭には全く問題ありません。価格競争という話になれば、飯田産業グループの圧勝です。
⑶について
鉄筋コンクリートのマンションの建築費が高騰しているという話はすでにしていますが、木造戸建ての建築費も徐々に値上がりの傾向が続いており、販売価格も上げざるを得ません。①の話のように、高給取りを相手にセールスするのであれば、競合は野村、三井不動産なので、大変厳しいものになります。
⑷について
書いている通り、大規模な戸建事業用地は買収競争が激しいものです。
事業スキームが同じなので仕方ないですね。
ネガティブなことを書きましたが、事業展開については企業努力により左右されますし、木造戸建て事業から派生した新規事業への転換は大いにあり得ると考えています。各社、どのような展開していくのか楽しみです。
今後も多角化について書いていきます。今日は終わり。